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抗生物質「セファゾリン」。供給が一時途絶え、医療現場が混乱した

 感染症の予防や治療に欠かせない抗菌薬のうち、とりわけ重要とされる一部の抗生物質を国産で賄うための取り組みが本格的に始まっている。生産の支えとなるのは、長年の経験で培われた技術者の「職人技」だ。

 岐阜県北方町にあるMeiji Seika ファルマ岐阜工場。ここで、30年間にわたって途絶えていたペニシリン系抗生物質の生産再開に向けた準備が進む。製造部の山田浩一郎さん(58)は「多くの人の命にかかわる薬の製造にまた関われる。とても誇りに思います」と、顔をほころばせた。

約30年ぶり、原料段階から

 社名が明治製菓だったころの1984年に入社。国内最大規模の設備をもつこの工場で抗生物質の製造に携わった。

 だが、同社は低価格で攻勢をかけてきた海外勢に勝てず、94年に生産をやめた。山田さんも別の薬品の担当に移らざるを得なかった。

 その生産が来年にも再開される。国産に回帰するのは、「このままでは日本人の命を自ら守れなくなる」という危機感が高まり、国が動いたためだ。

 ペニシリン系を含む「β(ベータ)ラクタム系抗菌薬」は、外科手術の際の感染予防や肺炎などの治療薬として幅広く使われているが、現在、原料のほぼ100%を中国からの輸入に頼る。

 国際情勢の悪化などで、原料の輸入ができなくなれば、深刻な事態に陥る。

海外でトラブル、国内で混乱

 実際に2019年、イタリアや中国のメーカーでトラブルが起き、「セファゾリン」という抗生物質の国内での供給が約8カ月にわたって停止した。この影響で、予定通りに手術ができなくなるといった事例が続出。代替用の薬も不足するなどの混乱を招いた。

 医学会などから安定確保を求める声が高まり、22年に成立した「経済安全保障推進法」の中で、βラクタム系の四つの抗生物質を「特定重要物資」に指定した。いざというときは輸入が途絶えても国産で賄えるよう、製造設備にかかる費用を国が支援するなどの措置が決まった。四つのうち二つがペニシリン系だ。

 特定重要物資には、半導体や蓄電池なども指定されている。

数ミリリットルから165キロリットルへ

 抗生物質はどうつくられるのか。

 ペニシリンを生み出すのは…

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